18/10月号 田中康夫の新ニッポン論63「「誤送船団」記者クラブ」◆月刊VERDAD-ベルダ

「私は至らない人間ですから、私への批判は当然あるだろうと思います。ですからドンドン言って頂ければと思っています」。

去る9月14日、読売新聞グループ本社の白石興二郎代表取締役会長が代表者を務める千代田区内幸町の日本プレスセンターで開催された、日本記者クラブ主催の自由民主党総裁選挙立候補者公開討論会に於ける安倍晋三内閣総理大臣の発言です。

口火を切った読売新聞の橋本五郎特別編集委員は、「昨年、森友・加計学園問題を始めとして内閣支持率が急降下した。最大の問題は不支持の大きな理由は首相が信頼できないという事で、非常に深刻な問題だ。『不徳の致すところ』と答えてお仕舞いにしてはいけない。何故そうなっているのか、その為に何をすべきなのか、お答え願いたい」と直截（ちょくさい）に質問。

「信頼出来ない根底には、国会答弁でもきちんと誠実に答えてないという声もある」。「『安倍1強』になって、自民党の美風だった色んな議論が、色んな意見が、自由さが無くなった。段々、薄れてきている」と畳み掛け、毎日新聞の倉重篤郎専門編集委員、朝日新聞の坪井ゆずる論説委員の質問を挟んで再度、斬り込みます。「拉致問題をどうするか。安倍晋三政権は一貫して拉致問題を解決出来るのは安倍政権だけだと言われていた。ご家族の方も相当高齢になっているところで、現状はどうなっているのか。見通しはあるのか」。

対抗馬が掲げた「正直、公正」への返歌として「責任 実行」で臨んだ第25代自民党総裁は、橋本氏の質問に対して以下の「答弁」を行いました。「拉致問題を解決出来るのは安倍政権だけだと私が言った事はありません。これはご家族の皆さんが、そういう発言をされた方がおられる事は承知をしておりますが」と。

2年5ヶ月前の2016年4月9日、横田滋さんに駆け寄って握手を交わした「最終決戦は続いている 制裁と国際連携で全員救出実現を！国民大集会」での写真を添付して同日22時52分に自身のアカウントで、「＃拉致問題 の解決は、安倍政権の最重要課題です。拉致被害者の方々と御家族の皆様が抱き合う日が来るまで、私たちの使命は終わりません。被害者を一日も早 く御家族のもとに取り戻すため、国際社会と連携しながら、全力で取り組んでまいります」とツイートした高邁なる「全ての拉致被害者の即時帰国」決意表明に自ら唾する「巧言」です。

当然、メディアは速報を流すに違いない、と確信しました。が、僕が月額2万円を外税で支払う共同通信社の会員制ネットサイト「e－WISE」は、一向に報じません。当日のテレビも翌日の新聞も報じていません。社説で扱った新聞も皆無です。日本記者クラブ主催公開討論会での日本国の最高責任者の発言にも拘らず、報ずる価値無し、と日本記者クラブ加盟各社は判断。皮肉にも、現政権応援団を自任する産経新聞“遠戚筋”の扶桑社「ハーバービジネスオンライン」と、『噂の眞相』の元編集者が手掛ける「リテラ」のネット2媒体が報じたのみでした。

自身が裸の王様となるのを潔しとせず、ドンドン言って欲しい、と一国の最高責任者が述べた場で日本記者クラブ幹部が忌憚（きたん）なき質問をした遣り取りを全く国民に伝えぬ、豈図（あにはか）らんや経営幹部ならぬ報道現場の「鈍感力」の根深さに、暗澹たる思いを僕は抱きます。

『投票前のカツカレー「4人が食い逃げ」安倍陣営嘆く』と朝日新聞が、『自民総裁選：カツカレー「食い逃げ」議員は？』と毎日新聞が見出しを付けて報じた内容こそ、スポーツ紙や週刊誌、ネットメディアに「役割分担」すべき。それでこそ、言行一致の誇り高き政治部記者の矜恃でありましょうに。